まどろみ
「私、明日も仕事なの」
困ったように眉を寄せ、己の膝に乗った巻島の頭をやっさしく撫ぜた。特徴的な玉虫色が指の間を抜けてゆくのが楽しく、たまに混じる赤色を軽く持ち上げ元に戻すような動作を何度も続けた。染めていない彼本来の色をしたまつ毛が気持ちよさげに閉じられた。
頭から手を離し、瞼の近くにある泣きぼくろに触れ、頬から唇まで指を滑らせる。その感覚に巻島は瑞樹の顔を見上げた。
「なんでやめるっショ」
「だから、明日も仕事なのよ
そろそろ帰らなきゃいけないからおきて」
「嫌だ」もともと下がった眉をますます下げて、巻島はくるりと体を回す。そして、そのまま腹に顔を埋めるようにすると、瑞樹の腰に腕を回してしまった。
咎めようと巻島の手に手を重ねて絡めとる。
「泊まってけばいいショ」
「そう言うわけにはいかないの知ってるでしょ?」
「困ったちゃんね」―――、子ども扱いする言葉に巻島は抗議の声を上げた。
「子ども扱いするなっショ」
「じゃあ離してくれる?」
至極優しく瑞樹は言った。名残惜しいと言うかのように、一本ずつゆっくりと手を離し、巻島は上体を起こした。
ずるい方法だと言いたかったが、困らせていることは事実なのでそれを追求することはない―――代わりに、もう一つだけわがままを言うことにする。
「瑞樹さん」
「ん?」
とても近くにある瑞樹の顔にキスを一つ。
「次いつ来るっショ?
―――もっと会いたい」
先と同じように玉虫色をひと撫ぜすると、瑞樹は微笑んだ。
「明日、来れたら来るね」
「ん、ありがと・・・ショ」
本当に困った子だと思う。
でも、
「私の方が会いたいの」
明後日だって仕事なのに、一番困ったちゃんなのは私だと、瑞樹は思った。
(2017/04/17)