Eternal Oath

「笑いごとじゃない!」

突如響いた怒鳴り声に、寿司を握る手を止めてジェットは奥の座敷を見やった。一番奥の座敷席には亜弥浜代官である琴吹とさる女剣士の姿があった。

光る君ふ


バツが悪そうな苦笑いで頭をかくあの女が鬼怒川を倒し亜弥浜の平和を作り出した立役者なのだと誰が信じるであろう。彼女は鬼怒川を倒した際死亡したものとばかり思われていたが、最近になり生き延びていたと分かったのだ。
あの戦いに参加したものは皆彼女の死を悲しんだと言うのに、当の本人は沈みゆく船より脱出し、平和になった亜弥浜に自分の使命は終わったのだと言わんばかりに、ゆうゆうと旅行に出かけたり町民相手の道場を開いたりとのんびり暮らしていたと言うのだ。
故に、琴吹が怒るのも致し方ない。ジェットでさえローラから彼女の生存を聞いた時には時を置かずに道場を訪ねてしまったのだから。

「いやぁ
私みたいな根無し草が心配されているとは思わなくてなぁ」
「馬鹿者が」

悪かったって。謝罪になっていない謝罪をして、琴吹の盃に酒を注いだ。
ちなみにこのやり取りは既に三回目であり、琴吹の酔いが深まるとともに怒鳴り声も大きくなっていた。おかげで普段なら繁盛している時間だというのに、店は2人の貸切となってしまった。
これが琴吹と瑞樹でなければとうにたたき出されていることだろう。

「へい!お待ち!」
「ありがとう。騒がしくて悪いね」
「僕は困らないからねぇ
沢山すしが握れて楽しいよ」

君たち以外は僕のすし食べてはくれないからね、言いながら新たに握った斬新な寿司と店主が用意してくれた燗の徳利を1合其れ其れ机の上に置く。
それにしても琴吹に比べ瑞樹は酔ってないように見えた。


「本当によく―――良く生きててくれた」


言ったまま杯を掴んだ瑞樹の手をはしと握り、身を乗り出した。それを受けた瑞樹は、突然の行動に目をまたたかせる。

「っ―――ありがとう」

それでも心底心配していたと分かったのだろう、微かに微笑んで礼を言った。すると、琴吹は瑞樹の手を包み込んだまま感慨深く息を吐いた。本当に良く―――それは、彼の心からの言葉であった。


そんな二人を眺めるジェットは眉間に皺を寄せている。

「Hmm...」
「じぇいじぇい、どうしたんでぃ?」
「いや」

そりゃねぇだろ。そう言う店主は気づかないのだろうか?奥ゆかしいこの国で堅物と呼ばれる様な男が女の手を握った。女はそれを甘受した。
そこに溢れるもどかしほどの想い、じれったさに身悶えする。



店主は面白そうにカラカラと笑って、ジェットの大きな体を琴吹達から隠れる様に屈ませる。


「あのなァ、じぇいじぇい
日本国ではなァこういうもンを”言わぬが花”って言うんだぜ?」
「イワヌガハナ・・」


つまるところ、店主も二人の気持ちに感ずいてはいるのだろう。


「そーゆーこった」

背を叩かれた。パァンと大きな音が鳴り響く。
途端、琴吹は瑞樹の手を離し、失礼をしたなどしどろもどろ謝罪を始めた。


いいんだ。

カラカラ笑った彼女の顔に朱がさしていたのはきっと酒のせいではない。


やはりもどかしいと、ジェットは思った。


(2017/04/16)