00.侍道2 Log
不器用×鈍感(2017/04/30)
「郷四郎ちゃーん!」
奉行所には似合わぬ明るい声に、郷四郎が顔を上げると、案の定門の近くで瑞樹が手を振っていた。 市民から慕われるのは悪くは無いが、彼女はあまり好きではなかった。
「その様に呼ぶなと言っているだろう!?」
自分は同心で、侍で、そして彼女より年かさだった。
「だって、宗助がそう呼べって」
そう瑞樹は、娘らしく頬を膨らませて口を尖らせてみせる。
む、と郷四郎は眉を顰める。ようするに中村の言いなりなのだ、彼女は。
「貴様は―――「じゃあ、郷四郎ならいい?」」
「む・・・」
「それとも、俺みたいな町人は武藤様って呼ぶほうがいいか?」
「それは―――」
口ごもる郷四郎。それが返答だった。
「郷四郎ちゃーん!」
奉行所には似合わぬ明るい声に、郷四郎が顔を上げると、案の定門の近くで瑞樹が手を振っていた。 市民から慕われるのは悪くは無いが、彼女はあまり好きではなかった。
「その様に呼ぶなと言っているだろう!?」
自分は同心で、侍で、そして彼女より年かさだった。
「だって、宗助がそう呼べって」
そう瑞樹は、娘らしく頬を膨らませて口を尖らせてみせる。
む、と郷四郎は眉を顰める。ようするに中村の言いなりなのだ、彼女は。
「貴様は―――「じゃあ、郷四郎ならいい?」」
「む・・・」
「それとも、俺みたいな町人は武藤様って呼ぶほうがいいか?」
「それは―――」
口ごもる郷四郎。それが返答だった。
雨と侍(2017/06/13)
梅雨の日だった。瑞樹が濡れて奉行所までやってきた。びしょ濡れでヘラヘラ笑う彼女に、さんざん説教したのは記憶に新しい。
そんなことを郷四郎が思い出しているのは、目の前にいる親子のせいだ。
親子は、”傘を貸してくれた”侍にお礼がしたいと言っていた。
突然の雨に困っていた子供に傘を与え、走り去っていったと云う。たかが町民にそんな事をする侍など瑞樹以外に思いつかない。
「分かった。伝えておこう」
傘と言葉を預かって、郷四郎は静かに答えた。
愚かとか、阿呆とか、思いつく限りの罵りを自分と瑞樹に浴びせたい気持ちだった。
梅雨の日だった。瑞樹が濡れて奉行所までやってきた。びしょ濡れでヘラヘラ笑う彼女に、さんざん説教したのは記憶に新しい。
そんなことを郷四郎が思い出しているのは、目の前にいる親子のせいだ。
親子は、”傘を貸してくれた”侍にお礼がしたいと言っていた。
突然の雨に困っていた子供に傘を与え、走り去っていったと云う。たかが町民にそんな事をする侍など瑞樹以外に思いつかない。
「分かった。伝えておこう」
傘と言葉を預かって、郷四郎は静かに答えた。
愚かとか、阿呆とか、思いつく限りの罵りを自分と瑞樹に浴びせたい気持ちだった。
雨と侍―その2―(2017/07/04)
(空が低い・・・これは降るな)
つんと香る雨の匂い、落ちそうな曇りを見上げ瑞樹は目を細めた。今日は傘を持っている事だし、問題ないと考えた瑞樹は、歩みを早めることはない。 彼女の予想通りやがてぽつりぽつりと雫が落ち始めた。
「みー」
傘を広げた瞬間に、そんな音が聞こえた。また怒られるとか、そんなことより先に体が動いて捨てられた子猫を見つけ出す。
ああ、また怒られるな。瑞樹の冷静な部分がそういったが、それでも。
「あげるよ」
「みー」
こんな小さなことが捨てられない。
***
「なぜまた濡れているんだ」
「いやぁ、ちょっと」
青筋立てた郷四郎ががしがしと手ぬぐいで瑞樹の髪をぬぐった。
「ちょっと、ではない
今度はどこのどいつにくれてやったんだ」
「・・・・子猫が捨てられてたんだ」
聞いて郷四郎は長いため息をついた。
「次は俺が迎えにいくからその場で待ってろ」
「ん。分かった」
未だがしがしされたまま、心地よさそうに瑞樹は目を閉じた。
(空が低い・・・これは降るな)
つんと香る雨の匂い、落ちそうな曇りを見上げ瑞樹は目を細めた。今日は傘を持っている事だし、問題ないと考えた瑞樹は、歩みを早めることはない。 彼女の予想通りやがてぽつりぽつりと雫が落ち始めた。
「みー」
傘を広げた瞬間に、そんな音が聞こえた。また怒られるとか、そんなことより先に体が動いて捨てられた子猫を見つけ出す。
ああ、また怒られるな。瑞樹の冷静な部分がそういったが、それでも。
「あげるよ」
「みー」
こんな小さなことが捨てられない。
***
「なぜまた濡れているんだ」
「いやぁ、ちょっと」
青筋立てた郷四郎ががしがしと手ぬぐいで瑞樹の髪をぬぐった。
「ちょっと、ではない
今度はどこのどいつにくれてやったんだ」
「・・・・子猫が捨てられてたんだ」
聞いて郷四郎は長いため息をついた。
「次は俺が迎えにいくからその場で待ってろ」
「ん。分かった」
未だがしがしされたまま、心地よさそうに瑞樹は目を閉じた。