ラクリモーサ
ラクリモーサ
死者が歌った。
ラクリモーサ
「―――、――――」
歌が聞こえる。
紅麗がその声は、瑞樹の声だと気づくのにそう時間はかからなかった。
なぜなら彼女はいつも一人で歌っていたからだ。
「・・・なにを、歌っているんだ?」
「秘密」
くすり。
瑞樹は笑みとともに人差し指を唇へ持っていく。
「――悪くないな」
「ありがとう」
「ねぇ紅麗?」
「なんだ?」
「・・・ちゃんと聞いててね」
そうしてまた瑞樹が歌い出す。
ゆっくりと何度も何度も。
まるで紅麗にこの旋律を覚えさせるように。
「ああ」
そうして繰り返された旋律を、いつしか紅麗は覚えてしまっていた。
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―――いやだ。
―――走馬灯かしら。
瑞樹はふと昔を思い出す。
視線をおろせば真っ赤に染まった腹部。すでに痛みを感じることはなかった。
もうきっとこれが最後なのだと、そう思わせるのに十分だった。
「ねぇ、紅麗覚えてるかしら?
あの歌を」
「瑞樹・・・しゃべるな」
紅麗が瑞樹を抱えた。
もう助からないは彼もわかっているのだろう。
それでも仮面を外すことも表情を崩すこともしない。
・・・それでいいと瑞樹は思う。
瑞樹は、麗に入ったあの日から死んでいたのだから。
「紅麗、―――」
そして、紡ぐ。
あの日の旋律。
血のあふれる口からはもう綺麗な音などでないけれど。
「聞いている、瑞樹」
「・・・」
「・・・・」
ああもう声すらも出なくなってきた。
「瑞樹・・・なにを、歌っているんだ?」
意識が消える寸前に聞こえたのは。
あの日と同じ、紅麗の問。
これは、沢山失ったあなたへの鎮魂歌。
(2011/08/10)
(2023/06/18 加筆訂正)