素晴らしき自暴自棄
「もう、好きにすればいい・・・」
暖かい春の日差し、明るい外に反して暗い部屋冷たい机、その上に積みあがった白い書類。もううんざりだ。
「僕も・・・僕も、好きにさせてもらう!」
ぷちんと小気味のいい音を立てて、彼の中の何かが切れた。ちゃっかりと有休を取っていた部下が土産だと買ってよこした飴を衝動的に手に取る。
主席総長はレプリカをかまうためにキムラスカにいるし、オリジナル様は事務仕事なんかやりもしない。
「覚悟しておけよ!」
書類を指さして、シンクは勢いよく立ち上がった。
もう書類を見続ける生活は嫌だ!お前らみんな苦しめばいい!仮面と法衣を脱ぎ捨てて、僕は自由になる!
「なに、言ってるんだ僕」
と言うよりも、ここどこ。刷り込みの記憶を合わせても数年しかダアトにいない彼は知らないが、ここはローレライ教団の中庭だった。ただでさえ複雑な建物の中、かくす様に設置された扉ゆえこの場所を知っている者はすくない。
「っへーい!今日も私は自由にな」
あ。
「ごめんなさい見逃してくださいなんでもしますから」
うしろに響く明るい声に振り向けば、神託の盾の制服を着着た女が土下座をしており、その素早さを面白く感じたシンクは声を立てて笑った。生まれて初めて笑い過ぎて腹筋が痛いと感じる。
「黙っててあげるよ。僕もサボりだしね」
「やりぃ!ありがと!
あたしリズ、あんたは?」
怒られないとわかった途端立ち上がり指を鳴らす、調子のいいやつと思うが悪い気はせず、この恰好を見れば分かるだろう、言いかけてはたと気づく。仮面も法衣も置いてきた。
・・・・顔っ!慌てて隠してももう後の祭りだ。
「あ、もしかして顔見られるの嫌だった?」
「・・・」
「多いよねー神託の盾にはさ
あたしも普段は仮面してるし」
頓着がなさそうに言うリズの様子に、だからこそ聞いてみたくなった。
「僕の顔導師に似てるだろ?」
きょとんと、彼女。
ああ、馬鹿野郎何でこんなことを言ったんだ。さっきまであんなに楽しかったのに、無意識に握りしめた手のひらで、飴がぐじゃりと音を立てた。いいんだ、どうせ食べたたくなんかない。
「あははははは」
ひーひーとリズが笑い、まじでか、嘘だろ、ユーモアあると指をさす。
「なん、」
「サボりやろーと導師比べたら、おこられるっつの
うけるー、導師はもっと上品な顔だって」
シンクは唇が弧を描くの自覚した。
「う、」
だから、飴玉ひとつ、振りかぶって。
「うるさいっ」
投げた。
「笑うなばーか!」
似てないという言葉を嬉しいとシンクはおもう。
「った!っいた!何これ、飴?くれんの?」
あげる。じゃあね、僕は仕事に戻るよと、右手を上げてひらひらと降る。
ああそうだ、僕はシンクだよと幾分か遅い自己紹介に、参謀長!とリズはひとしきり驚いてまたなーと手を振ったので、またねと返す。
不思議と執務室を飛び出した時の苛立ちもいつも感じていた虚無感も霧散していた。
「さーて仕事だ」
言いながら、残った飴をひとつ口へ運ぶ。
「ぶえっまず!」
味噌マグロ味のキャンディーだった。
(2017/04/18)
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「好きにすればいい。俺も好きにさせてもらうからな……だから、覚悟しておけよ?」
壱矢さんよりいただきました