Eternal Oath

心に響く、―――それは難しいものだと、一端のピアニストだからこそ赤松は思う。

in G major


音がした。

美しいバイオリンの音だった。


「これ・・・」

京家君じゃないかな?
ほら、超高校級のバイオリニストの

―――って赤松さん!!?」

気づいた時には音を辿って走り出して、着いた先は音楽室だった。切れ切れになった息を戻す時間すらも惜しく、倒れる様にドアに手をついて、小さな窓から中を覗き込んだ。

ああ、知っている。
彼女の頭の中に、まずはそれが浮かんだ。

なぜなら、京家は同じクラスの男子だったからで、そう確か、真宮寺と仲の良い物静かで目だたない人だった。
それなのに、自身の吐く息すら雑音に聞こえるほど、彼の演奏は赤松の心を揺さぶった。軽やかで、伸びやかで、何よりも美しい、その演奏が好きだと思った。


カタンと小さな音と共に演奏が止まる。
驚いた表情の京家が、赤松を見ていた。
途端、顔に熱が集まった。どうしてか、見ていることを見つかった事がとてつもなく恥ずかしく感じた。


「赤松さん、?」
「あはは」

言葉と共に開かれたドアに、気恥ずかしさを誤魔化すため無意味な笑みを浮かべた。つられて微笑み返す京家に、どうして今まで彼に気づけなかったのかと自問してしまう。
こんなに美しい音を持っているのに、と。

「聞きに来てくれたの?」
「え?」
「違うの?」

「ううん!!違わないよ!」

顔を思いっきり降った為に視界を塞いだ髪を、京家の指に払われる。見上げた視線にはっとした様子で、京家は手を引いた。

「っ、ごめん」
「・・平気」

先まで弦に触れていた手を厭う訳なんてなかった。

「嬉しかっ、」

と、そこまで口にして、今度は赤松が口を覆い黙ってしまう。


「?」
「―――京家くんの演奏
すごく良かったよ」
「嬉しいよ」

超高校級のピアニストにそう言って貰えるなんてと、続けられた言葉に彼は自分を知ってくれていたのだと知った。


「何かリクエストある?」


音楽室の中に戻って、京家はバイオリンを構えて言う。どうやら、嬉しいついでにもう一曲弾いてくれる様だった。
またあの音が聴けるのだと、しかも今度は堂々と近くで、まだ赤みの残る顔に満面の笑みで赤松は音楽室へ足を踏み入れた。

「ロマンスがいいな
今度は、ベートーベンの」
「第一楽章?」
「うーん、第二楽章かな」

彼の奏でるバイオリンの音に似た、笑顔を一つ京家は浮かべた。


「―――その曲、僕も好きだよ」


彼が超高校級のピアニストを知ってくれていたのと同じように、超高校級のバイオリニストを知りたい。
一音も聞き漏らさないように、赤松は耳をすませた。


(2017/04/16)