Eternal Oath

「誰だこりゃ!」

彼の十八回目の命日に墓を訪れていた天は
思わず叫んだ。削り取られもはや原型が分からなくなった、相変わらず慕われている彼の墓の周りには、多数の煙草に酒そして仏花が供えられている。
白や黄を基調とした仏花の中で異彩を放つ赤い花束が墓の正面に鎮座していた。

「彼岸花ですね・・・」


いくらなんでも墓の前に置く花ではないと、天の隣に立つひろゆきはその花束に触れようと手を伸ばしてふと止まる。


「どうした?」
「いえ・・・思い出したんです」


彼岸花の咲く頃に


それが行われたのは、数時間前のことである。

黒塗りの車が一台境内に止まり、中から一人の老女が降り立った。年を感じさせない伸びた背筋に、年相応に真っ白な髪を靡かせたその姿はどこか凛としたものを感じさせた。
1時間ほどで帰ると運転手に告げると、彼女は迷うこと無く一つの墓へと向かった。それはノミで削られ既に名前すらも読めなくなってしまっており、ここに眠る人物を知らなければ―――いや、知らないのならば墓石を削りなどしないのであろう、ここに眠るのは裏世界で名を馳せた一人の雀士だった。

境内にはシンとした静寂と、薄寒い墓地独特の空気がただよっている。ギャンブラー達の中で神的に慕われている彼の命日だと言うのに不思議と墓地には誰もいなかった。


「来たわよ、アカギ」

鈍く光る太陽光を遮るように墓の前に立つと、腰に手を当て赤い花束を方に担いで、憮然と彼女は言ってのけたのだ。


―――?

「久しぶりすぎて覚えてない?
それとも、私がばばあになり過ぎたせい?」


行き遅れのセミが喧しく鳴きはじめた。


「まあ、いいわ」


赤い花束がゆっくりと墓の前へと下ろされた。

―――嗚呼

「これで、思い出すでしょう?」

―――お前、瑞樹


老女は、真っ赤な彼岸花と同じ色の唇で笑う。彼が亡くなってからの十八年と言う年月は彼女から若さを奪ったが、その色だけは変わらなかった。

そして、蝉の声だけが辺りを包む。墓は物言う事はなく、老女も何も言わなかった。


「じゃあね、もう来ないわ」


どのくらいそうしていただろうか、遠ざかる蝉の声。


後ろ手に手を振って老女は二度と振り向く事はなかった。



* * *



佐倉瑞樹さん」
「は?」

彼、―――赤木が一度だけこぼした事がある。

「赤木さんが、一度だけ」

あいつが一番無念だと、記憶の中で赤木が笑う。


かろうじて残る”墓”の字が光を鈍く反射して、光輝いて、静寂だけがその場に残った。


(2016/09/27)
遅刻ですが、神域追悼。